『檸檬』の京都丸善復活! 多くの文豪たちに愛された丸善と88年前の社員たち
さらさらと心地よい水の流れを感じることのできる
美しい高瀬川沿いを散歩しながら
幼い頃に読んだ森鴎外の『 高瀬舟 』の内容を思い出していた。
▶︎ 京都・高瀬川のせせらぎ ( 2015年9月29日訪問・撮影 )
江戸時代、京都の罪人が流刑を申し渡されると、
この舟にのせられて、大阪まで送られたという。
ある日この舟に喜助という罪人が乗せられた。
弟殺しの罪を負った喜助だが、表情はなぜか晴れやかだ。
幼い頃に両親を亡くし、弟と2人身を寄せ合って
生きてきた喜助。
ある日弟が病気で働けなくなり、
更に苦しい生活を強いられる。
兄にこれ以上の迷惑をかけまいと、自殺を図る弟。
それを発見した兄・喜助。
命を助けようとするも、拒絶される。
剃刀が喉に刺さったままの弟。
抜いてくれと必死に頼むも、抜けば出血で命を落とす。
喜助は悩んだ挙句、その剃刀を抜くのだった。
この『 高瀬舟 』を始め
その先陣となった作品が
『 興津弥五右衛門の遺書 』
この作品が生まれたきっかけは
親友であった、明治の軍人・乃木希典の殉死。
殉死した乃木夫妻の葬儀から戻った鴎外は、
一気に同作を書き上げた。
▶︎ 森鴎外(1862〜1922)
出 典;Wikipedia
夏目漱石もまた、鴎外同様
乃木希典の死に影響を受け、筆を走らせた。
そうして生まれた作品が名作『 こころ 』である。
▶︎『 漱石全集 』第十二巻 『 心 』夏目漱石著( 岩波書店 )
祖父から父へ、父から私へ。親子三代で大切に読み続ける、我が家の書棚の重鎮
志賀直哉、有島武郎、武者小路実篤など
多くは学習院出身の上流階級に属する作家たち。
武士道など「 明治の精神 」を批判。
海外の文化に触れ、視野を広げることで
未来へと進むことを目指そうとする。
日露戦争で功績を挙げながらも
西南戦争以降、三十五年もの間
自らの行為を悩み、死を考えていたといわれる乃木希典。
▶︎ 乃木希典( 1849〜1912 )
出 典;Wikipedia
彼は教え子たちに反発される風潮の中
明治天皇の崩御とともに、死を選んだ。
生きていた三十五年が苦しいか
また刀を腹へ突き立てた一刹那が苦しいか
『 こころ 』作中で、Kを自殺に追い込んだことに
長年苦しめられ、やがて自殺を遂げる “ 先生 ”
夏目漱石は、自身の作中で生み出した “ 先生 ”を
「 乃木希典 」に重ね合わせ、失われゆく
“ 明治の精神の象徴 ” として『 こころ 』の中に
その姿を投影したのではないか。
「 私は半日を丸善の二階で潰す覚悟でいた。
私は自分に関係の深い部門の書棚の前に立って
隅から隅まで一冊ずつ点検していった 」
( 夏目漱石著 『 こころ 』より抜粋 )
2015年8月、この京都の町に
丸善が10年ぶりに復活した。
▶︎「 京都BAL 」このビルの地下1,2階が丸善
( 2015年9月29日訪問・撮影 )
許可をいただき、店内を撮影する。
売り場面積も広く、目を見張る品揃え。
東京・丸の内店とも日本橋本店とも違った雰囲気。
▶︎ 京都らしさを感じるコーナーを発見! ( 2015年9月29日撮影 )
京都丸善といえば、梶井基次郎の『 檸檬 』
作中に同店が「 主人公の憧れの対象 」として登場する。
同作の中に描かれる「 世界観 」を再現する人も多く
▶︎ 京都丸善 檸檬置き場 ( 2015年9月29日撮影 )
「『 檸檬 』を買ってスタンプを押そう! 」
このキャッチコピーに思わず1冊手に取り、レジへ向かう。
既に『 檸檬 』は、愛読書として1冊持っているが
折角「 京都丸善 」に来たのだもの。
何冊だって買えばいい。
99冊まではOKさ!
そして、世界にたった1冊の
オリジナル『 檸檬 』が完成!
我が家に保管されている、
昭和4年(1929年)の
「 丸善株式会社写真帖 」
歴代社長を筆頭に、当時の本店重役を始め
各支店の社員たちが全員写っている。
▶︎ 創業者の 早矢仕有的氏を始め、小柳津要人氏などの歴代社長が並ぶ
▶︎ 東京本店 重役・部長陣( 当時の社長は、5代目山崎信興;前列左から5番目 )
写真前列左) 「 島崎菊雄 」 初代京都支店長 (〜大正3年春迄)
写真前列右)「 大塚金太郎 」 2代目京都支店長( 大正3年春〜 )
開店準備期間中は、八田庄治が仮支店長を務めた( 前列右から3人目 )
▶︎ 当時の京都丸善を支えた、京都支店の社員たち 1
前列左から4人目が、京都支店長・村上英四郎
▶︎ 当時の京都丸善を支えた、京都支店の社員たち 2
明治40年7月開設時の京都支店社員は、森田謙三、町田儀一、三宅十郎( 会計係 )など
▶︎ 若き日の村上英四郎 ( 1962年5月29日卒 )
明治43年から大正4年まで、祖父が丸善大阪支店に勤務した際の先輩社員。
大阪支店時代の仲間には、その後 8代目社長となる、司 忠( つかさただし )もいた
当時、既に創業60年。
文豪たちに深く愛された丸善。
歴史と伝統ある丸善の88年前の社員たちは
みな内なる自信に満ち溢れた、品格ある
素敵な表情をしている。
これからまさに
日中戦争〜第二次世界大戦が始まるという苦しい時。
この写真に写る人物たちは、辛く困難な暗い戦争時代を
お互い励まし合い、それぞれに乗り越えたのだろう。
角倉了以が私財を投じて手がけたこの川は、
京都の町に富をもたらし、
また、変わり行く時代の中、
この川沿いで争いあった、幕末・勤皇志士たちの姿を
数多( あまた )見つめ続けた。
明治から大正・昭和、平成へ
幾多もの時代の中
人の世を写し続け
今日も絶え間なく
この町を流れる高瀬川のように
どうかこれからも絶えることなく
丸善の「 灯 」がこの京都の町に灯っていて欲しい。
籠いっぱいの檸檬で溢れる
みんなに愛される丸善であって欲しい。
京都の皆様
京都丸善は、お洒落なBALビルの
地下1,2階に入っています。
品揃えも多く
新しい本との出合いもきっとある筈です。
1冊の出合いが
あなたにチカラを与えるかもしれません。
お時間のございます際には、
是非、京都丸善へお運び下さいませ。
京都丸善の皆様
このたびのリニューアルオープン
おめでとうございます。
あまりにお洒落なビルの中なので
本当に驚きました。
丸善は、その長い歴史の中で
「 知の発信 」「 文化の発信 」
そうした役目をも担ってきた会社です。
皆様に昔の社員の方の姿をみていただきたく
写真をUPいたしました。
これからも歴史ある丸善社員であることに
誇りと情熱を持って邁進してください。
東京から応援しています。
▶︎ 京都BALビル (京都市中京区河原町通三条下ル山崎町251)
▶︎「 京都丸善の丸善カフェ 」( 2015年9月29日撮影 )